2012年3月28日水曜日

映画ドラえもん のび太の恐竜 2006

映画ドラえもん のび太の恐竜 2006』は現在のアニメと過去のアニメの違いを教えてくれる最高の教材だ。これは言うまでもなく、1980年代のアニメと原作が元になっている。その時代から、アニメがいかに進化したか、それがもう一目瞭然という感じの見事なできばえ。

なにが違うか。冒頭の映画的な演出からして違う。むかしのアニメは一枚絵が元になっていて、その中の人物を動かしてたりすることでアニメにしていた。そして、つねに横から人物をとらえる、という視点で構成されていた。すると、全体として、シーンが説明的になる。

ところがこのアニメは、冒頭から一人称視点ではじまる。一人称視点とは横から見ているのではなく、画面の中心が視点の中心となっている、ということ。実写映画で言うなら、今までカメラが動かず、つねにアクションを外から撮っていたのが、カメラが動くことによってアクションが生じるようになった、ということ。もちろん、ずっと一人称視点で描かれるわけではないが、画面そのものが動くシーンはかなりある。

二つ目の点は、描写の細かさだ。背景の描写もかなり力が入っていてきれいだ。80年代のアニメがいかにも漫画的な背景描写で済ませていたのに対し、このアニメでは(アニメCGの範囲で)リアルさを追求している。水面の動きなんかも、細かく描写されている。それは、いまの先端の技術で可能になっている。ほかには、タケコプターで飛ぶ瞬間の描写なんかも見事だ。空気が動き、服が揺れる、そういう描写によって、飛び立つ瞬間が描かれる。

画面が動き、描写レベルが上がったことで、何が変わったのだろうか。一言で言うと、それは、体験密度の違いとなって現れる。80年代のアニメは、所詮は紙芝居に毛が生えたようなものだった。ところが、このアニメは、実際にその世界に入ってそこで起きていることを見ているような感触を与えてくれる。

『岳 みんなの山』について書いたときにも似たようなことを言ったけれど、いまのアニメや漫画というのは、物語を語ることに加えて、それを擬似的に体験させることが可能になっている。80年代より技術的にも、技法的にも大きく進化したこのアニメは、まさにそのことをとてもよく理解させてくれる。

2012年3月27日火曜日

岳 みんなの山


手塚治虫文化賞を受賞した『岳 みんなの山』はとんでもないマンガだ。これは、山岳救助ボランティアの三歩という男がいろんな人を救助する、という話で、異様なリアルさがある。

作者はアメリカで長い間山を登った経験のある人で、その体験が盛り込まれている。というか、そうとしか思えないほど描写に緊迫感がある。遭難の体験なんかも、とにかくリアルで、それがどんなに悲惨でみじめか、ということがひしひしと伝わってくる。これを読んで、山に行きたくなる人はいないんじゃないだろうか。

ここに書かれているのは、単なるお話ではなく、体験談なのである。

このマンガが存在していること、それは一つの奇跡だ。実際に山でいろんな経験をした人が、それを元にマンガを書いてくれ、その体験を共有しくれる。それがどんなに貴重で、レアなことか。